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第3回:IoTと明晰夢

この間、錯覚を数学的に解明している方の講演を聴いた。人間の脳はリアルな画像を忠実に再現しているわけではなくかなり情報を加工している、ということだった。つまり脳はリアルな世界を不完全な再現をしているということになる。それが錯覚ということだそうだ。我々はリアルな世界をリアルだと感じている。それ以外に感じられないから仕方が無いわけであるが、リアルが本当のリアルかどうかなど疑いはしない。映画「羅生門」のように人によって同じ場面の解釈が異なっていることもあるかもしれないが、それを我々は意識することはない。
 
最近、ちまたではサイバーフィジカル空間というSFチックな言葉が踊ることがある。しかし、脳で再現されているリアルな世界を、サイバーフィジカル空間と区別することはできない。その証拠に、夢の中では夢であることに気がつかない。
 
ここで少し話は変わるが、「明晰夢」という言葉がある。夢の中でこれが現実でないことを自覚することで夢をコントロールすることが可能になる、という夢のことだそうだ。明晰夢は脳にとってのサイバーフィジカル空間といえよう。ここが重要なのだが、そもそも我々が見ているリアルな現実はリアルであることはあり得ない。それは脳で再構成されたものであり、また再構成されるためには感覚器官が必要となる。
 
IoTでさまざまなモノの状態を把握することも全く同様である。そのモノの状態はそれを把握するための感覚器官を必要とするからだ。一般的にそれを我々は「センサー」と呼んでいて、センサーを使ってモノの状態を計測している。そもそも計測という行為自身、リアルな世界に対して物理学的な定量化を行っているわけで、我々が習う単位がその物理量のメタデータそのものである。IoTがセンサーを必要とするのは今のところ物理量を測る手段が他にないからで、センサー以外の手段で測ることができればそれが使われるだろう。
 
ITの世界から見た場合、最初に定義されるべきメタデータが存在する。それは名前や住所などの個人情報に紐付く情報が中心となり、経済活動を行うためのメタデータが管理される。IoTはそういった個人や物やお金といった情報ではなく、リアルな世界そのものの情報が中心となっていく。学問が経済学から物理学に変わるくらい性質が違うデータということになる。
 
物理学的なデータの取り扱いについて考える前に、工学系の大学であれば必ず実験という行為を授業として行っているはずだ。そこでは計測したデータから考察を行って、法則性や数式を発見する行為である。その際に時より出現するノイズ値や異常値を外し、統計的な処理を行うことは経験しているはずだ。IoTも全く同様で電気信号化されたデータはコンピュータが扱えるデータとして変換されるが、変換された値自身はノイズや異常値を含むのだ。
 
オーディオが好きだった私にとって、音をきれいにすることはノイズを低減する技術に依存していた。トランジスタを中心とした電子回路を駆使してノイズの除去に各電機会社はしのぎを削ってきた時期である。日本はそういった細かい電子技術に長けており、日本の誇りであった。しかしそのような時代も今は遠くになりつつある。IoTにおいて、そういったノイズ除去のようなデータの補正はデータのクレンジングと呼ばれ、コンピュータ処理することで実現できるようになっている。IoTでは、音質の良いオーディオもコンピュータ処理することで実現できるということだ。
 
最近、松任谷由実の全曲が音楽配信された。配信することを決定した理由が、旦那さんの松任谷正隆が配信される曲の音質を気に入ったから、と書かれていた。さまざまなコンピュータ処理された曲が立体的(3D)に感じられたからだそうだ。ここで私は思ったことは、これも一種の錯覚と同じ原理ではないかということだ。リアルな音源よりもリアルに再構成されることで、よりリアルな感覚、音楽であればよりアナログ的に感じられる例であろう。IoTにおけるリアルな世界の再構成も同様で、リアルという漠然とした抽象概念からまさにリアルな世界を構成しているということだ。トートロジーになってしまったが、それはIoTによって再構成される世界をリアルと呼ぶことで、まるで明晰夢のようにリアルをコントロールすることが可能になる宗教なのかもしれない。